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小説には、連続作品と一話完結作品があります。連続作品は、左「カテゴリ」の各作品名より一話から順番に読むことができます。また「目次」には、各作品の概要などをまとめた記事が集められています。

■連続作品
◆長編作品
「子宝混浴『湯けむ輪』~美肌効姦~」

◆中編作品
「青き山、揺れる」
「師匠のお筆」
「大輪動会」(連載中)

短編作品
「ママの枕」  ▼「ブラック&ワイフ」
「夏のおばさん」  ▼「二回り三回り年下男」  ▼「兄と妻」

一話完結
「お昼寝おばさん」 ▼「上手くやりたい」  ▼「珍休さんと水あめ女」
「栗の花匂う人」  ▼「乳搾りの手コキ」 ▼「妻つき餅」
「いたずらの入り口」 ▼「学食のおばさん便器」  ▼「山姥今様」
「おしっこ、ついてきて。」

大輪動会-プログラム#22-

 *

「シッ!」

服部は話し相手と目を見合わせた。竜二とて制止されるまでもなく気付いていた。大きな騒ぎ声が校舎内に響いている。

「何?」

パソコンに向かっていた慶介と浩樹も立っている二人の方を見る。その横顔をモニターの光がぼんやりと照らした。窓から射す夕日もいよいよ絶えつつある。

 見てこようかと申し出た竜二を、まあ待てと服部が止めた。今人に見つかっては説明が厄介だ。少し静まってからにしようというのが彼の考えである。

 結局彼らが部屋を出たのは、浩樹らの作業が一通り終わってからであった。

 *

 待たされる身には、一分一秒が通常よりも長く感じられる。まして、一人取り残されているならなおさらだ。前原は苛々とした感情から次第に不安になっていった。日は刻々と暮れていくというのに、相変わらず事態に動きがない。忘れられているのではないか、そう思って何度も扉の方に行った。そして、窓の向こうにいる人影を見てまた元へ戻る。それを繰り返した。

 そんな時だ、女の悲鳴らしきざわめきが聞こえたのは。

「なんだ!?」

咄嗟に彼は入り口へ駆け寄った。外にはやはり見張りが立っている。彼はコンコンと窓を叩いた。見張りの男が振り返り、そしてうるさそうに扉を開けた。

「なんだ?」

また便所か、という態である。

「なんだじゃないよ、聞こえたでしょ、さっきの」

「ああ……」

比嘉は気のない返事をした。しかしその目には明らかに動揺の色が浮かんでいることを前原は見逃さなかった。

 実際、比嘉は動揺していた。さっきの叫びが聞こえた時、すぐに思い浮かんだのは最悪の事態。すなわち、金光の母が、就中その“現場”が抑えられたことであった。考えてみるまでもなく、これだけ人の行き来する閉鎖空間で、絶対に見つからない場所などあるはずもなかったのだ。

 それでも表向き平静を装い、

「何か……転んだか……荷物でも落としたんだろう」

と、うそぶいてみたが、既に見抜いている前原はなおも食い下がる。

「いや、そんな風じゃなかった。あれは……」

ここまで言いかけて、彼は口をつぐんだ。その脳内にも比嘉と同じ推理が浮かんだ。

「じゃ、じゃあ――」

ここで比嘉が攻勢に出た。

「見に行くか?」

それは、彼らが初めて邂逅した、あの目撃事件を髣髴とさせる提案だった。

 前原はちょっと考えた。だが、どういうデメリットがあるかすぐには判断しかねた。

 比嘉も言う。

「だ、だけど、あんた、見つからない方がいいんじゃないか」

事が大きくなってこじれる、というのである。それは確かに前原にとって望ましくない展開だった。

「しかし……」

前原は比嘉を見た。お前が見てくればいい、と。

「俺は見張りだ」

これでは押し問答である。彼らの移動もやはり、隣室の動きに合わせざるを得なかった。

 *

 思い切りの悪い佳彦は、その時、やっと校舎裏口を開けて中に入らんとしていた。そこで、かの悲鳴を聞いたわけだ。

「ヒッ!」

彼はびっくりして固まった。暗がりの中、人がいるかどうかも怪しい静けさの中に、突如として響いた女達の叫び。ちょっとしたホラーであった。

 やや時間を置いて、彼はやっと少しの落ち着きを取り戻すと、依然身を低くしたまま、這うように廊下に出た。しかし、すぐに首をひっこめることとなる。

 廊下の先に幾人かの人影があった。内容の分からない話し声はそこから響いてくる。

 もう一度、そっと覗き見る。よく見ると、ひとりだけ呆っと突っ立っている者がいる。白い影。佳彦にはそれが、まるで幽霊のように見えた。そう思うと、もうそうとしか見えない。

 すると、どうだ、それがくるっと踵を返し、こちらを向いたではないか。

 目が合った、気がした。彼はヘナヘナとその場にへたり込むと、しばし膝を抱えて震えていた。幸か不幸か、それが汚辱まみれの我が母とは知るべくもなく。

 *

「後ですぐ折り返す」

画面にはそうメッセージが表示されていた。島田からの返信だ。小林が現状を報告したものである。打ち上げに向かった島田や鈴木からは金光夫の現状を、他方居残り組からは金光妻の顛末を連絡することになっている。

「やらかしやがったな」

矢板が苦笑いした。さっきから続々と密偵からの報告が届く。それを聞いた第一声だ。

 悲鳴が聞こえてこの方、旧現場たる空き教室からは次々と身軽な者が偵察に出された。おかげで、何が起こったのか、彼らはつぶさに把握していた。実のところ、あまり聞きたくない話であり、露骨に気分を害した者も少なからずいた。

 しばらくすると、小林に島田から電話が掛かってきた。

「おいおい、さっきの話、本当かい」

開口一番、島田は非難の言葉を口にした。

「だから言ったじゃないか、あんまり羽目を外しちゃいけないよって」

「いやあ、そうは言ってもねえ、血気盛んな男達だもんだから」

小林が擁護する。鎌先のやり方が特別気に入っているでもないが、色々と面白い流れだとは思っている。いわば、彼にとってこれは祭りのようなもので。

「それにしたって、限度があるよ」

島田は納得出来ない。前原を捕える所からのくだりは、彼が大よその絵を描いてきた。高橋が、かつて入札案件で金光に出し抜かれた策をヒントにしたものだ。高橋は、いわばハメられたのであった。

 今回のケースで言えば、金光の顧問弁護士・前原に罪を押し着せ、スキャンダルで金光に打撃を与える作戦なのである。そのことは、主だった者達にも周知していたはずだ。事実として、大筋そのように事は運んでいるが、新入りの提案はイレギュラーであった。

 基本姿勢として、これ以上に事を大きくしたくないというのがある。保身が第一だ。それは共通認識のはずだった。が、一方で狂気的な性欲は否めない。大体からして、島田もその故に、打ち上げに立つ間際まで性交していたではないか。自分が済んだからいい、というのでは筋が通らない。島田もその弱みは自覚していた。

「まあ、とにかく――」

一段トーンを落として、彼は言った。

「そろそろ幕引きに向かわないといけないし、それに、とりあえず場所を――」

「ああ、それなんですけど、大輪館を使えばいいんじゃないかって」

小林が遮って言う。

「え? どこだって?」

「た・い・り・ん・か・ん。ほら、温泉の」

「ああ、ああ、温泉の。あの流行らない宿」

「ハハ、そうそう。あそこの人がね、仲間にいるんですよ、袋田さんと……ええっと……」

「いや、しかし、いくら人が居ないと言ったって、旅館だろ」

「それがね、今日休館日で――まあ、それで従業員さんが運動会に来てるんだけど――わざわざ開けてくれるって」

「ほお……」

思いがけない提案に、島田は思案した。確かに、それなら見つかる可能性は低いが、と同時に、この狂乱がもっと続くということになる。

「ああ、タダでいいって言ってますよ。サービスですって」

小林が電話する後ろで、袋田が笑顔で肯いている。その横から藪塚が、

「どうせ開けてても、お客が来ませんから」

と、電話口に聞こえるように叫ぶのを、袋田が“声が大きい”と、肘で小突いた。

「しかし、そんなに長くは出来ないよ。金光の奴が帰るだろうし」

「そこは島田さん、お願いしますよ」

「無理無理。わしはあいつと口も利けないんだから」

「そんなこと知りませんよ」

ワイワイと相談をし、結局可とも不可とも言えないままに島田は電話を切った。宴席に戻らねばならないからである。とはいえ、彼がどう望もうと、一行が大輪館なる旅館へ行くことになるであろうことは、もはや疑いがなかった。やると言えばやるだろう。もう男達の狂った劣情は止めようもないのだ。

 島田は、会話の最後に、有紀の荷物が残されていること、そしてその中に自家用車の鍵が入っているであろうことを伝えた。本来は、それらの回収によって、有紀を自宅までこっそり宅配し、終幕しようと目論んでいたのである。

 *

 有紀は身を清める為にシャワーを浴びていた。その足元がふらつく。だが倒れることはないから大丈夫だ。なぜなら、同じシャワーボックスに入って、わざわざ手伝ってくれる男達が居るからである。


〈つづく〉


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