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小説には、連続作品と一話完結作品があります。連続作品は、左「カテゴリ」の各作品名より一話から順番に読むことができます。また「目次」には、各作品の概要などをまとめた記事が集められています。

■連続作品
◆長編作品
「子宝混浴『湯けむ輪』~美肌効姦~」

◆中編作品
「青き山、揺れる」
「師匠のお筆」
「大輪動会」(連載中)

短編作品
「ママの枕」  ▼「ブラック&ワイフ」
「夏のおばさん」  ▼「二回り三回り年下男」  ▼「兄と妻」

一話完結
「お昼寝おばさん」 ▼「上手くやりたい」  ▼「珍休さんと水あめ女」
「栗の花匂う人」  ▼「乳搾りの手コキ」 ▼「妻つき餅」
「いたずらの入り口」 ▼「学食のおばさん便器」  ▼「山姥今様」
「おしっこ、ついてきて。」

大輪動会-プログラム#21-

 *

「ただいまあ」

ガヤガヤと騒ぎながら、教室に数人の男達が入ってきた。すなわち、小林、羽根沢、森岳、沼尻の四名である。一旦離脱した者達が、また輪に戻ってきたわけだ。

「ヤッとるか?」

小林が居並ぶ面々を見回して、同行者と笑い合う。彼は羽根沢ら三人と元々顔見知りではなかったが、今日の経験を通して急速に間を詰めたものだ。彼自身、人当たりの柔らかい性格の為もあるが、加えて、この特殊な目的の共有が彼らに一体感をもたらしていたのは確かである。

「や、それがね、ちょっと」

矢板が帰還者らを制止して言う。そこで、小林も気づいた、ヒロインが合体を解き、あまつさえシャツと短パンを着用していることに。矢板はかいつまんで説明した、鎌先の計画を。

「なになに、スカですか?」

「やめてよ、こんなとこでブリブリは」

森岳と羽根沢がぶつくさ言う。沼尻は別な興味を持っているらしかったが、その場の趨勢は前者らに傾いていた。

「だからね、これから移動してもらおうってわけ」

鎌先が皆の意を汲み、なだめに回る。本事案の提案者として責任を持って遂行するつもりである。

 彼が向かおうとしている場所、それはトイレであった。そこへ有紀を連れていこうというのだ。その為にわざわざ服も着させた。道中で誰に出くわすとも限らないからである。その辺り、配慮である。その上、

「学校となれば、シャワーもあるからね」

とも付け加え、計画は万全であると説いた。

「しかし、これほんとに必要かね」

羽根沢はまだ鎌先のやり方に疑問を持っている。そこで鎌先は、

「そりゃそうさ、具合が全然違うよ。それに一回綺麗にしておくと、後々絶対いいよ。かえって楽だよ」

と、力説した。且つはまた、「もう浣腸しちゃったから」という切り札を出し、やむを得ないことだと最後は力ずくでねじ伏せた。

「フーン……」

聞いていた沼尻が、有紀の尻ひだをむんずと掴み、プルプルと揺する。

「これこれ、危ないってば」

見かねた袋田が、思わず後ろから注意した。漏らされるのを恐れたのだ。すると沼尻は笑って、

「もってくれよ、奥さん」

と、有紀の耳の裏に息を吹きかけた。

 有紀は既に気が気でない。もう始まったいたのだ、究極の焦りが。脂汗がにじみ、周囲の声も耳に遠い。

 いよいよ移動という段になって、付き添い兼監視者が選ばれた。すなわち、鎌先と沼尻である。大人数はもとより、年少者も不向きと鎌先が判断しての人選だ。この程度の役は二人で十分だとも。

「大丈夫か」

と、森岳は友人の酔狂を危ぶんだが、自分が行くとは決して言わない。そういう嗜好は全くないのである。この点は、ほかの者も一緒だ。文字通り、臭いものには蓋、という心境で、いかな劣情異常者共も、こればかりは見たくないというのが本音だった。

 こうして鎌先と森岳は、鬼気迫る有紀を介護して部屋を後にした。

 *

 あらかた撤収作業も終わった運動場にて、懸案はいよいよ有紀の荷物であった。手にした役員女性らは、まさか放置も出来ず、持ち主のことも探しあぐねていた。

「どうすんの、これ」

疲れた体には、バッグも重い。まして、重さ以上の重み、いや恨み。

 そんな時、仲間の一人が軽やかな声を上げた。

「あら、先生」

そこには、当校の女性教諭がいた。三人が渡りに船と事情を説明すると、

「まあ……」

と、この生真面目を絵に描いた様な教師は心からの同情を寄せ、すぐに学校で預かることを承諾した。ただ、生憎彼女は段ボール箱の荷物を抱えている。

「職員室まで持っていきますよ」

「ホント? すみません」

結局保護者三名連れだって、有紀のバッグを運ぶことになった。先を行くのは女教師。そのまま校舎の中へと一行は消えた。

 *

「ウ……ちょ……」

ぎこちない動きで、有紀が立ち止まる。さっきからもう何回もだ。

「おいおい、こんなとこで漏らさないでよ」

ニヤニヤしながら沼尻がからかう。しかし、それに感情を波立たせる余裕もなく、有紀はただひたすら神経を集中させて耐えていた。

「ン……」

二、三歩進んでは、また立ち止まる。震える息を吐く。本当なら一刻も早く極楽にたどり着きたいのに、だが駄目なのだ。

「(もう許して)」

そんな風に懇願する段階は、むしろ余裕のある時だと思う。実際、用便には立たせてくれているわけだ、管理下とはいえ。それだけ切羽詰まっているわけだ。ただ、ただ、そこに至る道のりが遠い。遠い!

「ア……」

もう終わりだと何回も諦めかけた。それを寸での所で踏みとどまって、また一歩踏み出す。もはやガスを漏らすのさえ恐ろしい状態。内股となり、足を小刻みに揺らして誤魔化す。肛門が熱い。

「頼むよお、奥さん」

沼尻は益々嬉しそうに、またしても彼女の尻たぶを揉んだ。さすがの鎌先もこれには苦笑して、

「コラコラ」

とたしなめる。相棒の嗜好が分からぬでもないが、今は時間も大切だ。

「ン、グ……」

もの凄い形相で、有紀は歯を食いしばった。腹部の不安は極限にまで達し、もう一刻の猶予もない。腹の中がグルグル鳴って異常を警報している。

 段々と大腿部から臀部にかけて感覚がなくなってくる気がする。考えてみれば、排出口自体がいつもの形と違うわけだ。さては、しっかりと締まっていないのではないか。あんなに太いものでくり貫かれたではないか。まだ開いているのでは? そして、そこからこぼれているのでは? ネガティブな思考は絶えない。

 そんな時だった、角の向こうから女の話し声がしたのは。

 咄嗟の機転で、鎌先が沼尻の腕を掴んで去る。掴まれた方は驚いたが、相手の視線に威圧されて否も応もない。鎌先の動きは素晴らしく速かった。あっという間に物陰に移動した。夕暮れ独特の慣れない目が、彼らをかばったのは幸運だったろう。

 だが、不運の極みは有紀である。ここで、彼女の頑張りは絶えた。

「あっ!」

ほとんど声を揃えて驚いたのは、かの女教師と保護者連中である。尋ね人とばったり出くわしたわけだ。

「ちょっと金光さん――」

早速教師が詰め寄る。その刹那だった。

「え?」

「ああっ!?」

「キャーッ!」

一斉に轟いたのは悲鳴。空っぽの廊下にこだまする。それと相前後して炸裂するは、有紀の足元の……

「イヤッ!」

すばしこく跳ね下がる女性陣の足に黄色く濁った飛沫が襲いかかる。ドドドッという怒涛が高みから放たれ、その場は一種の修羅、あるいは混沌と化した。

「な、な……!?」

瞬間、女性教諭は理解が及ばなかった。しかし、それが追いつくのと、怒りが沸騰するのとはほとんど同時だったろう。

「な、なんなんですか!」

怒鳴るや否や、彼女は理性を失っていた。眼前に出現したもの、それは校舎の廊下にあってはならないはずの沼であった。そしてその中心に、何やら茫洋とした人物が立っている。いや、知るも知らぬもないその女!

「あなた、何を……! いい歳して……ああ、もう……信じられない!」

小刻みに震える全身が、彼女の気の動転を如実に表している。そのヒステリーは、むしろ周囲の付き人を僅かに冷静にした。

「あ、か、片付けましょう……」

一人が言って、周囲を素早く見渡す。すると、掃除用具の入っているらしいロッカーが見つかった。連れの者達も同じ所へ緩々と向かう。しかし、生憎ながらこの不始末を片付けるには、その中の用具では不足であった。

 すると、まるで八つ当たりめいた風で吐き捨てるように女教師が言った。

「わたしがやりますから!」

彼女はすぐに駆けていって、どこからともなくモップとバケツを持ってきた。

 それをただ見ている主婦らではない。ある者は新聞紙を広げて落とし、またある者はそれをかき集め、最終的にゴミ袋にそれを回収していった。おかげで仕事は捗ったというものだが、さりとて好ましい出来事であるはずもない。

「うう……」

各々鼻をひん曲げて悪臭に耐える。実際以上に強烈に思えるものだ。そもそも、何が悲しくて、大の大人のお漏らしを処理しなければならないのだろう。考えるだに情けなくなる。認知症老人の介護ではあるまいし。

 そう思った時、ふと一人が当事者を見上げた。そいつはなんと当初の姿勢を崩すことなく、呆けたようにそのまま立ち尽くしているではないか。

 有紀は、ただ立っていた。自分でも自分が信じられなかった。粗相などという表現は可愛らしすぎる。もはや世界の終わりだと思った。

 今朝食べたのはなんだったろう。そうだ、ヨーグルトとフルーツだ。美容に気を使ったヘルシーメニューだ。昼は抜いた。だから、それ程でもないはずなんだ。そう、だからこの量で済んだ……

 彼女は立ち尽くしたまま硬直していた。どんな気休めも通用しない。その股の間から、何かの滴が落ちて波紋をつくる。そう言えば、胃腸からではなく尻から直接注がれたものもあったはずだ。食べ物以外に、出てくる汁もあるはずだ。それを、目の前の女どもが掃除している。ガラス珠のような目で有紀は前を向いていた。

「いつまでそうしているんです!」

怒号が飛ぶ。木偶の坊に、ヒステリー教師が気づいたのだ。

「ああ、もう!」

苛々としながら、彼女は博愛に動いた。自分が果たさねばならない職責に、そして相矛盾する侮蔑の情に苛々としながら。今為すべきこと、それは、有紀をトイレに行かせ、シャワーをさせ、着替えさせ……

「トイレに行くとか、しさいよ!」

通常であったなら、保護者にこんな口の利き方はせぬであろうが、今は自制できなかった。無論、誰もそれを責める者はない。

 暗がりの中動く人影は、同じ日に運動会があったとは想像もできない程、陰鬱な表情に沈んでいた。


〈つづく〉


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