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短編作品
「ママの枕」  ▼「ブラック&ワイフ」
「夏のおばさん」  ▼「二回り三回り年下男」  ▼「兄と妻」

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「栗の花匂う人」  ▼「乳搾りの手コキ」 ▼「妻つき餅」
「いたずらの入り口」 ▼「学食のおばさん便器」  ▼「山姥今様」
「おしっこ、ついてきて。」

ブラック&ワイフ(3)彼我

彼はまだ幼く、それでいて悠然としていた。体格の良さが際立っていたからだろう。筋骨隆々というでもないが、肩幅は広かったし、何より背が高かった。年は陽子よりも一回り下だというのに、彼と会話するには見上げなければならない程だ。夫まで同様である。

それにしても、その夫がホームステイの話を二つ返事で受け入れたことは、妻にとり意外であった。どのような子が来るかということ以前に、あまりそういう外向きなイベントを好む性質と思われなかったからである。しかし、

「いいんじゃないか。静志にもいい経験になるだろうし」

「(なるほど)」

理由を聞けば納得だった。そして、そう言われれば否やはないのである。早速友人にその意を伝えた。

「助かったわ、引き受けてくれて」

彼女は喜んだ。学生時代、陽子とは共に語学を学んだ仲である。今は旅行会社に勤務している。学歴を見事に活かしていると言えた。

「旦那さん、話分かるじゃん」

彼女は言った。前に陽子がこぼした愚痴をやんわりと否定した格好である。彼女自身はずっと独身。故に陽子には時々話の通じぬもどかしさがあった。

だが今度ばかりは、夫の見通しを認めざるを得なかった。

「ロッくん!」

息子はすぐになついた。"リカビ=ロクン=コキョ"という日本人には発音の難しく聞きなじみのない名前の一部を取って、そう呼ぶ。彼の愛着ぶりは激しく、家にいる時はいつもべったりだったし、風呂にも必ず一緒に入った。そして、今日のあれである。

陽子は思い出して頭を振った。全く、彼女には静志がどうしてそこまでなついているのか分からなかった。単純に物珍しいからというのもあるだろうが、それだけであんなに入れ込むものだろうか。

陽子に分からないのは、かの留学生・ロクンが、決して人好きのする社交的な性格でないということである。あまり笑いもしないし、言葉数も少ない。時に不気味さすら感じられた。何しろその巨体の上、身にまとった異国情緒である。かなり浮いた存在に見えた。

「どう? 学校は。友達できそう?」

質問をしてみてもほとんど頷き返すだけ。時々しゃべっても大抵は単語単位。およそ話の弾むという例がない。

「すごく大人しい子ねえ」

陽子は友人に言った。すると友人は、

「そう?」

とそれほど意外そうにもせずに、

「でもさ、カデラマの男の人って、大体そんな感じじゃない?」

と言って、せわしなく髪をかき上げた。

そう言われると、陽子にも通じぬわけではない。カデラマ共和国には彼女と一度旅行したことがある。陽子はその時接した現地の人々の顔を思い出していた。

「(若かったな……)」

バガンマ語という、使用する地域の極めて限られた言語を母語とする国。折角学んだからという理由で、わざわざ選んで行った。その国へ行くのも、そもそもその言語を学んだのも、他人と違うことをしたいというある種の自己顕示欲の表れであった。それが別にその後の人生に直接役立つわけでもないのに。

友人は陽子と話す時間も惜しいらしく、忙しそうに喫茶店から出て行った。仕事を持つ彼女には、井戸端会議が退屈らしい。

「(役に立つ、か……)」

地元の言語を話せる陽子は、まさにホストファミリーとしてうってつけなわけだ。カデラマ人を迎えるに当たり、確かにこれ以上の人選はない。静志の戯れに几帳面に応じながら、相変わらずの無表情でスープをすするロクンの顔を見ながら、陽子は遠い目をした。

「硬派なんだねえ、カデラマの男は。なるほど、武士だね」

友人の言葉を伝え聞いた夫は、晩酌をしながらそう言ってほほ笑む。妻のスキルを活かせる、その点で彼女の役に立てたことを、彼はいささか得意に思っている節である。

妻はそんな彼に白けながら、あるいはひねくれた己を嫌悪しながら考えた。

「(硬派?)」

そうではない。むしろ素朴、いや野蛮。文明の進歩が遅い、いまだ前近代的な土地に共通の感性。それが、例えば陰茎を戯れに勃起させるような所業に出させる。平然とだ。

「(動物的なのよね)」

あまつさえ、たどたどしい日本語。そういう所が、直感的に息子を引き付けるのだと、そう陽子は結論付けた。そして、この国際交流の小さな一歩が、息子の将来を豊かにすることを彼女は願った。


〈つづく〉


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